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    ぼくの手は、ふつうの人の使うのと、ちょっと違ってた。
    地球上の人間の10分の9は
    右手を使うのが得意だった。
    ぼくは右手を使うのが、すごく苦手で
    右手ではほとんど、なにもできなかったんだ。というか右手を
    使わなければならないと言われなければ
    右手を使うことなんて、考えもしなかった。

    ぼくは生きてる間、ちょくちょくそのことについて
    咎められなければならなかった。
    「どうして右手を使わないんだ!」「右手を使え!」
    「向きが逆だ!」「どうしてお前がやると向きが逆になるんだ!?」
    工場で、ベルトから流れてくるもの、段ボール箱の在庫
    あの人たちの手順どおりにぼくがやると、いつも逆さまに
    できあがった。笑ってくれるといいんだけど人間てそんなとき
    笑ったりは、してくれないんだね。おれの並べてる食器の向きは
    死人の配置で、おまえの使っている手は
    まちがいなんだって、おれはもうだれもいないから左手でなんでもするし
    喰うけど、字を書くときだけは右手になった。
    もうだれも見てないのに、直らない。もう普通の手にしていいのにさ、ところで
    どうしてあんなにみんな、ぼくの手を叱ったのか
    おしえてくれないままだった。
    そういえば、左手を使う人間は器用だとかあたまいいとかいう噂は流行ったけどぼくは平凡で
    何の才能にも、恵まれなかった。
    ただみそ汁をこぼさないようにしていたかっただけだけど
    ふしぎだね、許してはもらえなかった。
    おれは豆を夜中の夜中まで皿から皿に右手で箸を持ってうつしているとき、
    右手がふるえて、おとしてしまうんだ。
    父さんが怒って、酒を飲みながらつまみ喰ってるときに。
    左腕がなくなっちまえばみんなにおこられないですむのにとおもって、いじけてた。
    おれはなんでみんなと同じ手が上手に使えないだけでおこられてしまうのか、
    みんなの信じたいものが
    わからないままだった。10/13

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